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内容説明

2010年6月発行

知的財産訴訟の実務
知的財産裁判実務研究会編
書籍コード 300020
判型 A5判上製
頁数 368頁
 知的財産権をめぐる最近の状況は,めまぐるしく変化しつつある。まず,2002年3月には知的財産戦略会議が設置され,同年11月には知的財産基本法が成立し,2003年3月には内閣総理大臣を本部長とする「知的財産戦略本部」が内閣に設置され,「知財立国」の実現に向けて,「知的財産推進計画」が毎年作成されている。
 知的財産戦略本部が設置されてから,知的財産を戦略的に保護・活用し,我が国産業の国際競争力を強化することが国家目標とされ,さまざまな制度改革が推進されてきた。このような状況の中で,知的財産権が侵害されたときに,その損害をすみやかに回復し,差止め等の措置を採るために,裁判所において適正迅速な裁判がなされることが各界から期待されているのは当然のことであろう。
 知的財産権関係訴訟事件の充実・迅速化は,2001年6月の司法制度改革審議会の意見書においても最重要課題の一つとして位置付けられていた。そして,2003年には民訴法(知財訴訟関係)が改正され,特許権,実用新案権に関する訴訟の東京・大阪の裁判所への専属管轄化,著作権・商標権に関する訴訟の東京・大阪の裁判所の競合管轄化,知財訴訟への5人合議制の導入,専門委員制度の導入がなされた。
 裁判所においても,この間,知財訴訟の果たす役割の重要性と各界からの期待を真摯に受け止め,知財訴訟部門の裁判官,調査官の大幅な増員を行い,若手裁判官の海外及び国内の研修を充実させ,また,知財関係の国際会議に経験豊富な裁判官を積極的に派遣するなどし,日本の知財訴訟を海外にもアピールしてきた。また,東京地裁の知財部では,2000年10月に「知的財産権侵害訴訟の運営に関する提言」をまとめて公表し,2003年5月にはこれまでの審理運営におけるさまざまな試みを集大成した「特許権侵害訴訟の審理の迅速化に関する研究」(司法研修所編・法曹会発行)を発行している。
 この結果,知財訴訟の既済事件の平均審理期間は,ここ10年でほぼ半減し,その迅速性においても予見可能性においても知財の専門家から高い評価を受けるに至っている。
 また,2005年4月には,知財高裁が設立され,審決取消訴訟及び侵害訴訟控訴審の一層の審理の充実と迅速化が図られ,さらにはこれまでに大合議による判決もなされるなどして,社会的な注目度及びその影響力が一段と高まってきているといえよう。なお,2005年4月には,特許法の改正により秘密保持命令の制度や無効の抗弁の制度が導入されるなどしており,これらの改正が知財訴訟の審理に実質的な影響力を与えつつある。
 本企画は,このような状況の中で,東京・大阪地裁知的財産部の裁判官有志及び知財高裁の裁判官有志が,特許権・実用新案権・商標権・意匠権・著作権の各侵害訴訟,不正競争防止法に基づく訴訟,職務発明相当対価請求訴訟及び審決取消訴訟の実務について,実体法及び訴訟手続の観点から実務上重要と思われる点をなるべくわかりやすく解説し,知財訴訟に興味のある法律家に,広く知財訴訟の実務を理解してもらうことをその目的とするものである。したがって,見解が分かれる法律上の争点については,できるだけ客観的に判例学説の考え方を紹介することを原則とするが,その中で表明されている見解があるとすれば,それは文責者の意見であり,東京地裁・大阪地裁あるいは知財高裁としての公式見解でないことはいうまでもない。本企画が,知的財産法に興味のある一般の法律家が知的財産関係訴訟についての理解を深める一助となれば幸いである。
(本書 はじめにより)
目次抜粋
はじめに
第1  知的財産訴訟の種類と管轄等
   知的財産法の範囲
   法形式からする知的財産法の分類
   知的財産訴訟の主な種類
   知的財産訴訟の管轄
   知的財産訴訟の関係者
第2  特許権侵害訴訟
   訴訟の構造
   被告製品又は被告方法の特定
   技術的範囲への属否
   抗 弁
   先使用の抗弁
   消 尽
   特許無効の抗弁
   損害額の認定
   秘密保持命令等
第3  実用新案権侵害訴訟
   制度の沿革
   保護の対象
   登録要件
   出願手続
   権利付与手続
   実用新案権
第4  職務発明対価金請求訴訟
   はじめに
   職務発明
   原告が発明をしたこと
   使用者に承継させたこと
   発明により使用者が受けるべき利益の額
   使用者の貢献割合
   相当対価請求権の消滅時効
   審理のあり方
第5  意匠権侵害訴訟
   はじめに
   意匠権の効力の及ぶ範囲
   意匠の実施及び間接侵害行為
   意匠の類否
   意匠権の制限
   意匠権侵害に対する民事的救済
第6  商標権侵害訴訟
   商標としての使用
   商標の類否
   無効の抗弁
   損害額の認定
第7  著作権等侵害訴訟
   はじめに
   著作物
   著作者
   著作権の内容
   著作者人格権の内容
   著作隣接権等の内容
   著作権法の適用範囲
   著作権の制限
   著作権の保護期間
  10  複製と翻案について
  11  損害額の認定
  12  侵害主体(間接侵害)
第8  不正競争訴訟
   不正競争防止法の構造
   不正競争行為の類型
   秘密保持命令
   損害額の認定
第9  審決取消訴訟
   審決取消訴訟とは
   審決取消訴訟の分類
   訴えの提起
   審決取消訴訟の審理
   特許審決取消訴訟における審理の実際
   審決取消訴訟における主張立証責任
   進歩性の判断構造
   審決取消訴訟と審判手続との関係
   判 決
  10  判決以外の訴訟終了事由
  11  審決取消訴訟における若干の実務上の問題について
  12  実用新案権
  13  意匠権
  14  商標権
第10  侵害訴訟と審決取消訴訟の交錯
   はじめに
   侵害訴訟と審決取消訴訟における判断の矛盾抵触
   訂正に関する問題
事項索引
判例索引