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内容説明

2016年12月発行

簡易裁判所における交通損害賠償訴訟事件の審理・判決に関する研究
司法研修所編(司法研究報告書第67輯第1号) ISBN 978-4-908108-67-9
書籍コード 28-19 A4判 188頁 税込定価 3,259円(本体 2,963)
 本研究は,簡易裁判所における交通損害賠償訴訟事件(ただし,物損事故事件に限る。)の審理・判決の在り方を研究するものである。
 物損事故事件は,実況見分調書が作成されないなど客観的な証拠が少ないことから,事実認定に悩むことが多く,裁判官にとって難しい事件の一つといえる。しかし,低額の物損事故事件は国民に身近な紛争の一つといえることから,国民に身近な紛争を簡易迅速に解決する役割を担う簡易裁判所において解決するのが望ましい。ところが,簡易裁判所の物損事故事件は弁護士保険特約の普及に比例して年々増加しており,これに伴って審理期間が長期化し,判決書作成にかかる裁判官の負担も増大している。また,これまで本人訴訟を中心に審理運営を行ってきた簡易裁判所の裁判官が弁護士に適切に対応できているかという問題もある。簡易裁判所の物損事故事件の審理・判決は現在このような状況にあり,このままでは簡易迅速な審理・判決の実現という簡易裁判所の役割を果たせないのではないかとの懸念がある。そこで,弁護士関与訴訟にも対応できる物損事故事件の在るべき審理・判決モデルを作成し,これを簡易裁判所の裁判官に実践してもらうことによって簡易迅速な審理・判決を実現しようとするのが本研究の目的である。
 本研究に当たっては,研究員・協力研究員において簡易裁判所の判決書を100通以上分析し,汎用性のある判決モデル案を作成した。その上で,その判決モデル案を東京,大阪,名古屋及び横浜の各地方裁判所の交通部裁判官並びに簡易裁判所における物損事故事件について豊富な経験を有する東京の弁護士4名(伊藤まゆ弁護士,垣内惠子弁護士,円谷順弁護士,飯島雅人弁護士)の方々に見ていただき,控訴審及び当事者の立場から貴重なご意見を頂いた。また,東京の弁護士4名の方々には実際に本報告書を読んでいただき,本報告書に対しても数々の貴重なご意見を頂いた。本研究にご協力いただいた各地裁の交通部裁判官及び弁護士の方々に対し,心からお礼を申しあげたい。さらに,東京簡易裁判所の裁判官及び書記官の方々からも本報告書で示した審理・判決モデルに対して有益なご意見を頂いた。併せてお礼を申しあげたい。
 このように本報告書で示した審理・判決モデルは,控訴審の立場,当事者の立場,簡易裁判所の立場から頂いたご意見を踏まえて作成したものであるが,最終的な責任は本報告書を作成した研究員・協力研究員にあることはいうまでもない。また,本報告書に記載した争点整理及び事実認定に関する基本的な事項並びに民事訴訟法280条を活用した判決書の記載事項は,物損事故事件以外の民事訴訟事件にも応用できると考えている。本報告書が,簡易裁判所の物損事故事件の審理・判決にとどまらず,それ以外の事件の審理・判決にも参考になれば望外の喜びである。
 最後に,司法研修所,最高裁判所事務総局民事局,各研究員・協力研究員所属の裁判所には,本研究について多大なご配慮を頂いた。ここに改めて謝意を表したい。
(「はしがき」より)
目 次
第1編 本編
第1 本研究の概要
1 本研究の目的
2 簡易裁判所の交通損害賠償訴訟事件の実情と研究の必要性
3 交通損害賠償訴訟事件をめぐる裁判所内の検討状況と本研究の位置付け
4 本書の構成
第2 裁判官が理解しておくべき事項
1 はじめに
2 争点整理に関する事項
(1) 物損事故事件の争点
(2) 責任に関する争点
ア はじめに
イ 加害者又は被害者の過失が争点になっている場合
ウ 過失割合が争点になっている場合
(3) 損害に関する争点
ア はじめに
イ 修理費
ウ 買替差額
エ 評価損
オ 代車料
3 事実認定に関する事項
(1) はじめに
(2) 動かし難い事実との整合性
ア 動かし難い事実の意義
イ 事故現場の道路状況及び車の損傷状況との整合性
ウ 事故現場の道路状況及び車の損傷状況以外の動かし難い事実との整合性
(3) 動かし難い事実との整合性によって当事者等の供述の信用性が判断できない場合
第3 審理の進め方
1 はじめに
2 第1回口頭弁論期日前の準備
(1) 原告に対するもの
ア 重要な書証の提出の促し
イ 参考事項聴取
(2) 被告に対するもの
(3) 裁判所書記官の役割
3 当事者がそろう最初の口頭弁論期日の審理
(1) はじめに
(2) 争点の確認
(3) 必要書証の提出の促し
(4) その後の審理の進め方の確認
4 その後の審理
(1) はじめに
(2) 責任に関する争点の整理
(3) 人証調べの要否の見極め
5 人証調べ
6 司法委員の活用
(1) 司法委員制度(民訴法279条)の意義
(2) 交通損害賠償訴訟事件における司法委員の関与
(3) 司法委員の指定方法及び指定時期
(4) 司法委員との評議
(5) 裁判所書記官の役割
7 和解
(1) はじめに
(2) 和解勧告の時期
(3) 和解案の提示方法
※ 書面による和解案の例
第4 新モデルの解説
1 民訴法280条とその活用
2 民訴法280条による判決書の記載事項
3 新モデルの記載事項
※ 【新モデル】
※ 新モデルの記載事項の説明
※ 【参考】当事者の主張を記載した例
第5 新モデルの具体例
1 ケース1
 駐車場における衝突事故で,事故態様が中心的争点になり,車の損傷状況から事故態様が認定できたケース
2 ケース2
 客を乗せて発進しようとしたタクシーとタクシーを追い越そうとした車両が接触した事故で,追越車両運転者の過失(予見可能性)及び過失割合が争点になったケース
3 ケース3
 駐車場における衝突事故で,争点整理の結果,責任に関する争点が被告の過失(結果回避可能性)に絞られたケース
4 ケース4
 同一方向進行車両同士の接触事故で,事故態様が中心的争点になり,車の損傷状況から事故態様が認定できたケース
5 ケース5
 同一方向進行車両同士の衝突事故で,事故態様が中心的争点になり,車の損傷状況だけでは事故態様が認定できず,それ以外の動かし難い事実から事故態様を認定したケース
6 ケース6
 交差点における出合い頭衝突事故で,信号の色が争点になり,事故現場の道路状況から信号の色が認定できたケース
7 ケース7
 交差点における出合い頭衝突事故で,信号の色が争点になり,車の損傷状況及び事故現場の道路状況からは信号の色が認定できず,供述の一貫性によって当事者の供述の信用性を判断したケース
8 ケース8
 事故態様,被告の過失及び原告の過失は争いがなく,過失割合のみが争点になったケース
9 ケース9
 駐車場における衝突事故で,争点整理を通じて,争点について当事者と共通認識を形成し,供述の具体性等によって当事者の供述の信用性を判断したケース
10 ケース10
 原告車と被告車が接触したかどうかが争点になり,車の損傷状況から接触の事実は認められないと判断したケース

第2編 資料編
資料1 平成25年度簡易裁判所民事事件担当裁判官等事務打合せ資料 (簡略判決モデル)
資料2 ある庁が作成した書証提出に関する書式
資料3 ある庁が作成した書証提出に関する書式
資料4 研究員・協力研究員が作成した書証提出に関する書式
資料5 ある庁が作成した参考事項聴取に関する書式
資料6 研究員・協力研究員が作成した参考事項聴取に関する書式