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2017年9月発行 |
デリバティブ(金融派生商品)の仕組み及び関係訴訟の諸問題 | |||||||
司法研修所編(司法研究報告書第68輯第1号) | ISBN 978-4-908108-73-0 | ||||||
書籍コード 29-04 | A4判 188頁 | 税込 3,769円(本体 3,426) | |||||
本司法研究が問題意識をもって取り組んだ主要なテーマは,次のようなものである。 第1は,複雑な商品特性のデリバティブ商品が増加し,またプライシングの問題が取り上げられるようになったこともあり,訴訟の場で金融工学を含む専門的知見へのニーズが高まっていることへの実務的な対応である。専門訴訟への対応といった場合に,専門家の活用が真っ先に取り上げられるのが通常と思われるが,むしろ本当に必要なのは,訴訟に携わる我々裁判実務家自身の「リテラシー」の向上なのではないだろうか。このような観点から,本司法研究報告では,デリバティブの基礎知識編にそれなりの分量を割いて(第1章〜第3章),デリバティブについて特段の予備知識のない平均的な法律実務家を読者として想定して,デリバティブの基本中の基本を,単なる情報の羅列ではなく,「考え方」のような次元まで可能な限りかみ砕いて,説明することを試みてみた。なお,デリバティブの入門書とか概説書のようなものも多数市販されているが,その多くは金融実務家を対象としたものであり,どうしても金融工学に偏った内容になっていたり,我々が本当に知りたい基本の部分が当然の前提として省略されていることが少なくないというのが正直な印象であり,本司法研究報告はそうした点にも可能な限り配慮したつもりである。 第2は,現在の裁判実務の主役とされている「説明義務違反」について,平成25年最判と平成28年最判を踏まえつつ,説明義務なるものが認められる実質的な根拠をどこに求めるのかという出発点に立ち返って基本的な視座を設定するとともに,説明義務違反を巡る実体法上の諸問題について考え方の道筋をつけたいという点である。ここで,誤解のないようにお断りしておくと,我々が意図しているのは飽くまでも考え方の整理であって,結論を示すことではないということである。叙述の流れで一定の方向性が示されていると受け取られる部分もあるかもしれないが,それは司法研究員の個人的な私見にとどまり,それ以上の何らの意味(意図)を有するものではない。 第3は,従前の実務の二本の柱と目されていた適合性原則(狭義)違反と説明義務違反という伝統的な枠組みでは対応が難しい類型として,「ヘッジニーズに適うものとして販売された金融商品と実際のヘッジニーズとの不適合」が問題とされる事案があるのではないか,この種事案を適切に救済する理論的枠組みが求められているのではないかという疑問について,正面から取り組んでみた。なお,このような事案は,平成23〜24年前後に金融 ADRで大量に処理された為替デリバティブ取引に関して典型的に見られたものであり,金融 ADRと訴訟との役割分担を踏まえつつも,金融 ADRの処理実績を通じて裁判実務の立場からも学ぶべきものがあるように思われる。また,この問題は,適合性原則(狭義)の領域縮小が指摘されている中で,適合性原則の新たな側面に光を当てようとする試みでもある。 第4は,近時注目されている議論である時価評価額,プライシングに係る種々の主張について,現在までの理論的な到達点と今後の課題を明らかにするとともに,契約時時価評価額の開示等を巡って紛糾しがちであった審理の在り方についても一定の考え方を示した。また,デリバティブに関する紛争の多くは,特定の経済的・社会的な背景の下で大きな波のような形で発生する社会事象という性格を持っており,そうした背景への理解が不可欠である。このような観点から,各種のデリバティブ紛争類型の時代背景であるとか,業法等の関係法令その他の周辺制度とその変遷にも目配りをした。 ちなみに,このような観点からいうと,現在(平成28年12月)は,平成20年秋のリーマン・ショックとその後の極端な円高の影響から多数のデリバティブ関係訴訟が提起された流れが一段落した「デリバティブ関係訴訟の凪の時代」といえるのではないかと思われる。実際,デリバティブ関係の本格的な投資損害賠償訴訟はめっきり減少しているという印象であり,その意味では,本司法研究のテーマに対する現場の問題関心も薄らいでいるかもしれないが,むしろ激しく議論が動いている時期にこのような研究を行う困難さを考えると,そして本質的に同じ問題を抱える事件が将来発生する可能性が大いにあることからすると,結果的には恵まれた時期に本司法研究の取りまとめを行うことができたと考えている。 (本書序章より抜粋)
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目 次
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裁判所データブック 2017 | |||||||
最高裁判所事務総局編 | ISBN 978-4-908108-72-3 | ||||||
書籍コード 29-03 | A4判 122頁 | 定価 1,019円(本体 926) | |||||
本書は,裁判所の機構及び事件統計について,数値や図表を用いて分かりやすく掲載しています。裁判所の種類及び数,下級裁判所の名称,裁判所機構図,裁判所審級図,裁判所職員の定員,執行官の数,調停委員の数,裁判官・検察官の報酬,裁判所の予算額等の裁判所の組織関係のデータに加えて,日本における法曹人口の推移や,諸外国の法曹人口の比較,さらに司法修習生の数等,裁判所に関連する周囲のデータについても幅広く掲載するとともに,事件の平均審理期間の推移,民事及び刑事の第一審新受事件数の累年比較,全裁判所の新受事件数,全裁判所の事件の種類別の新受,既済及び未済件数,最高裁判所の民事及び刑事上告事件の累年比較,最高裁判所の上告等事件の上告理由などのさまざまな事件統計についても最新のデータを用いてコンパクトにまとめています。各種のデータには,必要最小限の分かりやすい説明文を付し,データを通して裁判所の機構及び事件処理状況を一般の方にも広く理解していただけるように工夫されており,裁判所の全体像の把握についての画期的な資料となっています。
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