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2018年11月発行 |
裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究 | |||||||
司法研修所編(司法研究報告書第69輯第1号) | ISBN 978-4-86684-001-7 | ||||||
書籍コード 30-07 | A4判 160頁 | 定価 3,565円(本体 3,241) | |||||
我々研究員が委嘱された平成27年度司法研究のテーマは,「裁判員裁判において公判準備に困難を来した事件に関する実証的研究」である。
公判前整理手続及び期日間整理手続(以下,両者を特に区別することなく,「公判前整理手続」という。)は,公判準備の一種であるが,国民の期待に応える司法制度の構築の一環として,刑事裁判の充実・迅速化を図るため,刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成16年法律第62号)により,刑訴法第2編第3章第2節「争点及び証拠の整理手続」の中に創設され,平成17年11月1日から施行された。公判前整理手続の目的は,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うために,事件の争点及び証拠を整理して,審理計画を定めることにある(刑訴法316条の2,316条の3参照)。他方,裁判員裁判は,司法の国民的基盤の確立の大きな柱として,裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号。以下,「裁判員法」という。)に基づいて導入され,平成21年5月21日から施行された。裁判を職業としない一般の国民に裁判員として参加してもらうためには,充実した迅速な審理が不可欠であるため,裁判所は,裁判員裁判の対象事件については,公判前整理手続に付さなければならない(裁判員法49条)とされている。 このように,裁判員裁判と公判前整理手続は,その創設から密接に結び付きつつ,公判前整理手続は施行から12年,裁判員裁判は施行から9年が経過し,一定の実績を積み重ねてきたが,その中で,公判前整理手続の基本的な在り方という観点から見て,公判前整理手続では,何をどこまで整理すべきなのか,手続の主宰者である裁判所と訴訟追行の主体である検察官及び弁護人との役割分担はどうあるべきかなど,いくつかの運用上のあい路や問題点が明らかになってきた。 このようなあい路や問題点の一つの現れは,公判前整理手続の長期化という問題である。裁判員裁判対象事件の平均審理期間は,平成25年,平成26年と短縮傾向が続いていたが,平成27年以降,自白・否認の別に関わらず,再び長期化しており,その要因は,自白・否認のいずれについても,審理期間の大半を占める公判前整理手続期間が再び長期化していることにある。すなわち,自白事件・否認事件の区別のない総数でみると,公判前整理手続の期間は,平成22年から平成24年にかけて,平均5.4月から7.0月へと長期化し,その後,平成25年は6.9月,平成26年は6.8月と高止まりの状況にあったが,平成27年には7.4月,平成28年には8.2月(自白事件6.5月,否認事件10.1月)となっており,再び長期化している。従前から,弁護人の予定主張の明示までに時間がかかることは指摘されていたが,予定主張記載書面が提出されてから公判期日指定に至るまでの期間が伸びていることも指摘されるようになっている。 公判前整理手続については,平成24年12月に公表された「裁判員裁判の実施状況の検証報告書」(制度施行から平成24年5月31日までのデータに基づいて作成されたもの)においても長期化の問題が指摘され,早期の打合せや期日の仮予約など実務上様々な工夫が行われているにもかかわらず,依然として抜本的な解決の道筋が見えてこない。公判前整理手続であれ,裁判員裁判であれ,一定の実績を積み重ねてきたのであるから,本来,法曹三者の習熟度に応じて,公判前整理手続の期間は短縮されるのが道理のように思われる。それにもかかわらず,公判前整理手続はむしろ長期化しているのであり,公判前整理手続の基本的な在り方という観点から,その原因・あい路とそれへの対応策が実証的に検討されなければならない。 公判前整理手続が長期化する根本的な原因は,争点及び証拠の整理が的確に行われていないことにあり,争点及び証拠の整理を的確に行うことが公判前整理手続の本質的な課題である。公判前整理手続の長期化という問題は,「当該事件の争点は何か,その争点を判断するために必要な証拠は何か」がきちんと決まるまでの期間が長すぎるのではないかという問題として捉えるべきであろう。例えば,「この点は争点ではない」とか,「この内容は公判審理で明らかになればよいことなので,争点の整理としてはこれ以上詰める必要がない」と判断するまでが遅い,という場合もあろう。更には,「当該事件の争点は何か,その争点を判断するために必要な証拠は何か」という意識を十分に持たないままに,適切とはいえない検察官や弁護人の意向のままに公判前整理手続を進めているという場合もある。司法研究の目的は,長期化した事件の実例を,争点の内容,争点に関する証拠構造等を踏まえて分析することにより,「当該事件の争点は何か,その争点を判断するために必要な証拠は何か」ということを,それらの事件の特色等に応じて的確に確定させるための方策を示すことにある。訴訟技術的な議論(例えば「早期打合せ」「期日の仮予約」)にとどまらず,事件や争点の性質,証拠構造,検察官や弁護人の主張の在り方などの点に留意して,争点及び証拠の整理を的確に行うための方策について提言したい。 本研究の手法としては,@裁判員裁判で審理され,公判準備に困難を来した事例を取り上げ,争点及び証拠の構造と,公判準備に長期間を要した要因との両面から分析し,その原因・あい路を明らかにし,A実証的研究に当たっては,できる限り実際の記録に当たりつつ,裁判官の意見交換によって研究を補完し,Bこれらと並行して,公判前整理手続における当事者追行主義や裁判官の果たすべき役割,更には,法律家と他の分野の専門家との役割分担を踏まえた判断枠組みなどについて,協力研究員を交えて,理論的研究と実務運用上の工夫等を検討した。具体的には,最高裁判所事務総局刑事局及び司法研修所の協力により,裁判員裁判施行から平成27年6月末までに終局したもののうち,公判前整理手続の付決定から公判期日の指定までの期間が長期(おおむね1年6か月を超えるもの)に及んだ裁判例を抽出し,特殊事情がある事例を除いた50件の記録(以下,「長期化事例」という。)を取り寄せ,争点及び証拠の構造と公判準備に長期間を要した要因の両面について,協力研究員を交え,研究員において検討した。また,司法研修所での研究会や,各地の協議会に参加し,有益な議論を拝聴したり意見交換をしたりすることができた。 このように様々な場面で意見交換をしていただいた方々のほか,本研究に当たって種々の御配慮をいただいた最高裁判所事務総局刑事局,司法研修所,研究員所属の各裁判所当局の方々には,この場を借りて改めて謝意を表したい。 (はじめにより)
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目 次
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裁判員裁判記録教材(第2号 殺人未遂事件) | |||||||
法務省法務総合研究所編 | ISBN 978-4-86684-013-0 | ||||||
書籍コード 30-09 | A4判 約580頁 | 定価 3,056円(本体 2,778) | |||||
本書は,実際にあった事件を素材として,法務総合研究所が,刑事実務の教育指導の現場で活用できるように作成した教材用の事件記録です。
教材であることを考慮して,登場する人物,団体,地名等は実際の事件とは関係のない架空のものとされていますが,形式については,送致書から始まる司法警察員や検察官作成の捜査関係書類,令状関係書類及び公判記録等が実際の捜査・公判の時系列に沿って収められています。 法科大学院においては理論と実務を架橋した教育の重要性がいわれているところ,法科大学院生のみならず,刑事訴訟手続を学ぶ者にとって,捜査実務についての具体的なイメージを獲得することに適した教材であると思われますので,頒布することといたしました。 多くの読者が,実際の事件が素材とされていることに留意した上で,この教材を刑事実務の理解を深めるために,積極的に活用されることとなれば幸いです。 |
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目 次
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高等裁判所刑事裁判速報集(平成29年) | ||
法務省大臣官房司法法制部編 | ISBN 978-4-86684-014-7 | |
書籍コード 30-17 | A5判 424頁 | 定価 6,569円(本体 5,972) |
本書は,全国の高等検察庁において作成した「高等裁判所刑事裁判速報」に掲載された裁判例のうち平成29年分を,各高等裁判所ごとに,その速報番号にしたがって収録したものであり,昭和56年度版から継続的に刊行されているものである。この速報集は,その編集方針上,類書とは収録重点を異にした特色ある裁判例集として,検察内部のみならず,部外の法曹においても頻繁に利用されてきたものであって,裁判月日別索引も掲げられ,利用価値の高い資料となっている。
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