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2019年4月中旬発行 |
民事訴訟のIT化 | |||||||
福田剛久著 | ISBN 978-4-86684-019-2 | ||||||
書籍コード 31-03 | A5判 約300頁 | 定価 3,616円(本体 3,287) | |||||
政府は,2017(平成29)年6月9日に「未来投資戦略2017」を閣議決定し,その中に「利用者目線で裁判に関わる手続などのITを推進する方策について速やかに検討し,本年度中に結論を得る」という内容を盛り込んだ。これを受けて,同年10月,内閣官房に設けられた日本経済再生本部に裁判手続等のIT化検討会が設置された(日本経済再生総合事務局が担当。座長・山本和彦一橋大学大学院法学研究科教授)。そして,同検討会は,2018(平成30)年3月30日付で検討結果を取りまとめ,公表した(以下「検討会まとめ」という)。
検討会まとめは,「裁判手続等の全面IT化を目指す上では,まずは,民事裁判手続の基本かつ根幹であり,利用者の利便性・効率性の向上という観点からも大きな効果が期待し得る,民事訴訟一般を念頭に置いた骨太な検討と制度設計を行うことが相当である。」として,裁判手続等のIT化は民事訴訟から始めることを提言している。そして,その民事訴訟のIT化について,e提出(e-Filing),e事件管理(e-Case Management),e法廷(e-Court)の「3つのe」をフェーズ1からフェーズ3までの三段階に分けて実現することを提言している。 検討会まとめは,最後に,「本検討会で打ち出された基本的方向性やビジョンに基づき,今後の関係者の不断の努力により,裁判手続等のIT化が,望ましい姿で,早期に実現されていき,それを通じ,我が国の民事裁判手続やそのプラクティスが,国民にとって真に利用しやすいものとなり,世界に誇るべきものとして,益々発展・確立していくことを強く期待するものである。」と結び,民事訴訟のIT化が国民にとって利用しやすい民事訴訟を目指すものであることを明らかにしている。現行民訴法は,「民事訴訟を国民に利用しやすく,分かりやすいものにする」ことを目標として立法された(拙著『民事訴訟の現在位置』213〔2017(平成29)年,日本評論社〕)が,検討会まとめもそれと同じ目標を掲げたものということができる。 最近の急激なIT化の進展,AIの進歩に伴って,社会はまったく新しいステージへと移行しつつある。自動運転自動車が行き交い,自動翻訳機によって言語の壁が消滅した世界が目前に迫っている。医療の分野では,すでに,画像診断,手術,治療方法の選択など,各方面においてAIが利用されるようになっており,ひとり裁判の分野だけがIT,AIと無縁であり続けることができるとは考えられない。筆者は,同検討会に元裁判官の立場で委員として参加し(川村尚永〔内閣官房日本経済再生総合事務局参事官〕「裁判手続等のIT化に向けた検討」NBL1113-47以下〔2018(平成30)年〕参照),議論に加わったが,その中で,検討会まとめに沿った民事訴訟のIT化が実現し,それを基に他の裁判手続のIT化が行われた場合には,日本の裁判手続は,これまで経験したことがないような大きな変革を迫られることになるという認識を深くした。そして,その変革が,国民にとっても,司法にとっても大きな恵みとなるものにするためには,法・実務・技術などの側面でIT化を担う人たちだけでなく,裁判手続に関わる研究者・実務家,IT技術者,さらには裁判手続の利用者である一般国民が,知恵と知識と想像力を出し合い,意見を述べ合う必要があることを痛感した。 本書は,上記のような認識と民事訴訟に対する思い,さらには検討会まとめには一端の責任があることから,検討会まとめに沿った民事訴訟のIT化が実現した場合には,民事訴訟にどのような変革が生じることになるかということを,筆者の能力の及ぶ範囲で個人的に検討したものである。筆者は,長く民事訴訟実務には携わってきたが,ITやAIに関してはまったくの素人であり,外国の民事訴訟のIT化についても文献や関係条文から得た知識しかないので,誠に不十分な検討ではあるが,検討会まとめによれば,フェーズ1は2019年度にも始まり,Web会議装置などを利用したe法廷(e-Court)が部分的に開始される可能性があるので,不十分なものでも,資料提供の意味も含めて,公表する意義があるのではないかと考えたものである。 (はしがきより) |
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